小咄
「で、何であきちゃんらと合流したはずのあんちゃんたちが、男の子二人だけでここにいるの?」

 ひとしきり喋り、片桐が真砂の嗜好を確認した上で適当に食事の用意に取り掛かったところで、深成は捨吉に向き直った。
 途端に捨吉が渋面になる。

「それがさぁ……」

 ちら、と横の惟道に目をやり、はぁ、と大きくため息をついた。

「ていうか、あんちゃん惟道くんと、あんまり喋ったこともないんじゃないの?」

 最近出張続きだった捨吉は、惟道とも数えるほどしか会っていない。

「それに惟道くん、今日あきちゃん誘ってたよね? ゆいさんも誘ったの?」

「いや。あの後、席で仕事をしていたら、電話で今日も誘われたのだ。今日は一課の女子と約束がある、と言ったら、自分も行くと言い出して。仲良しだと言うし、ならいいかと思ったんだが」

「そうなんだ。じゃあ四人で飲んでたんだね」

 再び、なぁんだ、と思った深成だが、やはり違和感は否めない。
 二次会的なものだとしても、何故わざわざ男子チームと女子チームに分かれているのか。

 帰る方向だとしても、あきはいるはずだ。
 それに、ゆいが惟道と別行動するとも思えない。

「ていうかさ。仲良しとわかってるんだったら、ゆいさんの前であんなこと言うんじゃないよ」

 ほとほと困った、というように、捨吉がため息と共に言う。
 話がわからずきょとんとする深成に、実は、と捨吉が重い口を開いたところによると、ゆいの前で、惟道があきに告白したというのだ。

「ええええっ? だってあきちゃん、ちゃんと彼氏がいるって言ってたじゃんっ」

「そうなんだ?」

 ちょっと捨吉が嬉しそうな顔になる。
 ちゃんと自分の存在を事前にアピールしてくれていたのだ、と安心したらしい。

「彼氏がいたのだとしても、誘いに乗ったということは、少なくとも嫌われてはいない、ということになる、というぞ」

 捨吉の向こうから、惟道が言う。
 深成が少し困った顔をした。

「うん、まぁそれはそうかもだけどさぁ」

「社会人には会社の付き合いってものもあるんだからね」

 捨吉が、言い聞かせるように言う。
 確かに会社付き合いという意味でいえば、たとえ嫌いな人からの誘いであっても断れない場合もあろう。
 だがそういう細かい感情や空気というものは、惟道には理解できないものらしい。

 若いから、というだけではない。
 人としての当たり前の感情というもの、そのものがごっそり抜け落ちている感じだ。
 真砂をロボットにしたような感じである。

「お前はそこまであきのことが好きなのか?」

 不意に真砂が口を開いた。

「好きとか嫌いとか、皆がよく言うそういうことは、俺にはわかりませぬ。ただ誰か一人に絞ったがいいというのであれば、あの女子がいい、と思ったまで。その女子には断られたし」

 ちょい、と深成を指して言う。
 真砂が微妙な顔になったが、そんな二人の間で、深成は鼻息荒く胸を反らせた。

「当ったり前じゃん。悪いけど、わらわには彼氏がいるし。あんちゃんとか惟道くんとかと一緒に飲みに行っても、わらわの心が彼氏から離れることはないからっ」

 恥ずかしげもなく言う深成の横で、真砂が僅かに口角を上げた。
 その前で、片桐がにやにやと笑っている。

「そういう確固たる意志が、あの女子には感じられなんだ」

 惟道の思わぬ言葉に、ぎょ、と深成が目を剥いた。
 捨吉も同様に目を剥いている。
 こちらのほうが衝撃は大きいようだ。
 無理もないが。

「そなたはまぁ、俺がどう頑張ったところで無理であろうとわかる。だがあの女子は、ちょっと押せば行けるのではないか、と思えるのだ」

「え、い、いやいや。あきちゃんだって、ちゃんとあんちゃんのこと好きだよ?」

「何だ。あの女子の彼氏というのはあなたか」

 惟道の目が、捨吉を捕らえる。
 それだけで、う、と捨吉はちょっと身を引いた。

 どうやらそこまでは話していなかったらしい。
 惟道があきを誘った、というのであれば、牽制のためにゆいが言いそうなものだが、あきが言っていないのなら社内のことだし、言うべきではないと思ったのだろう。
 誰か、までは言っていなくても、あきには彼氏がいる、ということは言ってあるのだし。
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