小咄
「……そうか……。確かにあの女子の相手が章親だとすると、いくら可能性が大きいとわかっても手出しはせんな」
『そういうことじゃ。おぬしは基本的に、章親以外の人間のことはどうでもよすぎるのだから、周りの人間全てが章親、と思って行動したほうがいい』
「そんなことでは疲れる」
『確かに、周りが全て章親など、そんないいことがあるわけないわな。ではせめて、毛玉がいっぱいおると思うがいい』
「そうだな、その程度であれば」
毛玉って何だろう、それにこの二人の『章親愛』は一体……と皆の心に疑問符が湧く。
『とにかく、穢れた身体で章親に近付くのは、この魔﨡が許さぬ。身を慎むよう』
「承知」
妙なやり取りを普通に終え、惟道は電話を切った。
そして捨吉に向き直る。
「すまなかった」
素直にぺこりと頭を下げる。
「別に取ろうと思ったわけではないが、結果的にはそう思われても仕方ないの」
「君はさぁ、そんなにあきちゃんが好きなの?」
結構がんがん言いたいことを言われてダメージを食らっていた捨吉が、項垂れたまま聞く。
それに惟道は首を傾げた。
「好きとか嫌いとかは、先も言ったように、俺にはよぅわからぬ。何度も言うように、ただ誰ぞ選べ、となった場合、あの者が良かっただけ」
「そんないい加減な気持ちで近付かないで欲しいなぁ」
「これはいい加減なのか」
「いい加減に聞こえる。でも、多分君の感覚では、そうではないんだろうけど」
人の気持ちなど、深く考えれば考えるほどわからなくなる。
惟道はかなり特殊だが、捨吉だって、それほどめちゃくちゃあきが好きか、と聞かれると、はっきり言うとわからない。
ここを即答できるのは、真砂と深成ぐらいなものだろう。
「あああ、ほんっと、深成が羨ましいなぁ~」
「何で?」
ため息と共に吐き出された捨吉の言葉に、深成がきょとんとした目を向ける。
「深成は課長のことが、めっちゃ好きってわかるもん。あ、じゃあ羨ましいのは課長のほうか」
「わーっ! あ、あんちゃん、ちょっと!!」
しーっ! しーっ! と人差し指を立てて、深成が目で惟道を示しつつ訴える。
そういうあからさまな態度のほうが怪しい。
『課長』だけなら何も真砂だけではないのだから、入って間もない惟道相手だと誤魔化すことも可能かもしれないのに、自らバラしたようなものだ。
じぃ、と深成を見ていた惟道の視線が、そのままその後ろの真砂にスライドした。
真砂も惟道に目を向ける。
「……ま、そういうことなんで、こいつには手を出すなよ」
さらっと惟道に言う。
まさか真砂がバラすとは思ってなかった深成は、ぎょっとした。
捨吉も、ちょっと驚いたように目を見開く。
惟道はちょっと考え、ちろ、と捨吉を見てから、また真砂に目を戻す。
「あなたは俺が、やはりこの女子がいい、と言ったらどうする?」
何てことを! と真砂をよく知る深成と捨吉は一瞬で肝が冷えた。
が、意外に真砂は、馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
もっともその口から出た言葉は、この上なく物騒だったが。
「殺す」
びゅっと店の中をブリザードが吹き抜けた。
怒りを露わにしたわけではない。
むしろ口角は上がっていた。
だがこの恐ろしさは何だ。
片桐、捨吉、深成は一瞬で凍り付いてしまったが、それを言われた張本人である惟道は、相変わらずの能面で、平然とその言葉を受け止めた。
「……あなたは、そうであろうと思う。同じぐらいの気を、この女子からも感じられるから、俺はこの女子は諦めた。あなたはそこまで言わなかったではないか」
後半は捨吉に向けて言う。
う、とまた、捨吉は言葉に詰まった。
「まぁまぁ。あのね、人の心の燃え方には、いろいろあるもんなのよ。炭火みたいにじっくりじわじわ温まる心もあれば、業火のように激しい心もあるわけよ。……まぁ業火がずっと続くってのも珍しいんだけど」
ぷぷぷ、と笑いながら、片桐がフォローに入る。
「お兄さんところは、歳が離れてるから子兎ちゃんを可愛い可愛いで愛してあげたほうがいいのよ。子兎ちゃんも寂しがり屋だからねぇ、穏やかさは不安でしかないかもね」
にまにまと真砂を見ながら言う片桐を、深成は赤い顔で密かに睨んだ。
『そういうことじゃ。おぬしは基本的に、章親以外の人間のことはどうでもよすぎるのだから、周りの人間全てが章親、と思って行動したほうがいい』
「そんなことでは疲れる」
『確かに、周りが全て章親など、そんないいことがあるわけないわな。ではせめて、毛玉がいっぱいおると思うがいい』
「そうだな、その程度であれば」
毛玉って何だろう、それにこの二人の『章親愛』は一体……と皆の心に疑問符が湧く。
『とにかく、穢れた身体で章親に近付くのは、この魔﨡が許さぬ。身を慎むよう』
「承知」
妙なやり取りを普通に終え、惟道は電話を切った。
そして捨吉に向き直る。
「すまなかった」
素直にぺこりと頭を下げる。
「別に取ろうと思ったわけではないが、結果的にはそう思われても仕方ないの」
「君はさぁ、そんなにあきちゃんが好きなの?」
結構がんがん言いたいことを言われてダメージを食らっていた捨吉が、項垂れたまま聞く。
それに惟道は首を傾げた。
「好きとか嫌いとかは、先も言ったように、俺にはよぅわからぬ。何度も言うように、ただ誰ぞ選べ、となった場合、あの者が良かっただけ」
「そんないい加減な気持ちで近付かないで欲しいなぁ」
「これはいい加減なのか」
「いい加減に聞こえる。でも、多分君の感覚では、そうではないんだろうけど」
人の気持ちなど、深く考えれば考えるほどわからなくなる。
惟道はかなり特殊だが、捨吉だって、それほどめちゃくちゃあきが好きか、と聞かれると、はっきり言うとわからない。
ここを即答できるのは、真砂と深成ぐらいなものだろう。
「あああ、ほんっと、深成が羨ましいなぁ~」
「何で?」
ため息と共に吐き出された捨吉の言葉に、深成がきょとんとした目を向ける。
「深成は課長のことが、めっちゃ好きってわかるもん。あ、じゃあ羨ましいのは課長のほうか」
「わーっ! あ、あんちゃん、ちょっと!!」
しーっ! しーっ! と人差し指を立てて、深成が目で惟道を示しつつ訴える。
そういうあからさまな態度のほうが怪しい。
『課長』だけなら何も真砂だけではないのだから、入って間もない惟道相手だと誤魔化すことも可能かもしれないのに、自らバラしたようなものだ。
じぃ、と深成を見ていた惟道の視線が、そのままその後ろの真砂にスライドした。
真砂も惟道に目を向ける。
「……ま、そういうことなんで、こいつには手を出すなよ」
さらっと惟道に言う。
まさか真砂がバラすとは思ってなかった深成は、ぎょっとした。
捨吉も、ちょっと驚いたように目を見開く。
惟道はちょっと考え、ちろ、と捨吉を見てから、また真砂に目を戻す。
「あなたは俺が、やはりこの女子がいい、と言ったらどうする?」
何てことを! と真砂をよく知る深成と捨吉は一瞬で肝が冷えた。
が、意外に真砂は、馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
もっともその口から出た言葉は、この上なく物騒だったが。
「殺す」
びゅっと店の中をブリザードが吹き抜けた。
怒りを露わにしたわけではない。
むしろ口角は上がっていた。
だがこの恐ろしさは何だ。
片桐、捨吉、深成は一瞬で凍り付いてしまったが、それを言われた張本人である惟道は、相変わらずの能面で、平然とその言葉を受け止めた。
「……あなたは、そうであろうと思う。同じぐらいの気を、この女子からも感じられるから、俺はこの女子は諦めた。あなたはそこまで言わなかったではないか」
後半は捨吉に向けて言う。
う、とまた、捨吉は言葉に詰まった。
「まぁまぁ。あのね、人の心の燃え方には、いろいろあるもんなのよ。炭火みたいにじっくりじわじわ温まる心もあれば、業火のように激しい心もあるわけよ。……まぁ業火がずっと続くってのも珍しいんだけど」
ぷぷぷ、と笑いながら、片桐がフォローに入る。
「お兄さんところは、歳が離れてるから子兎ちゃんを可愛い可愛いで愛してあげたほうがいいのよ。子兎ちゃんも寂しがり屋だからねぇ、穏やかさは不安でしかないかもね」
にまにまと真砂を見ながら言う片桐を、深成は赤い顔で密かに睨んだ。