月光花
それに、纏っている服がおかしい。
最初は浴衣と勘違いしていたが、これは死人が着る左前の衣装ということを祖父母に教えてもらったことを思い出す。
そして瞬時に、少年の存在が異質な存在だと知る。その為、この場所は死者が暮らす世界ではないかと考えてしまう。
黒い物体に包まれた結果、別の世界へ飛んでしまった。そして死者が暮らす世界なら三途の川があっていいものだが、周囲にそれらしきものはない。
それに三途の川の近くには石が沢山転がっているという話を聞いたことがあるので、自分がいる場所は別の場所だと認識できた。
何故、死者の国に詳しいのか。やはり、祖父母の影響が強いといっていい。
お盆の時期、祖父母からこのような話を聞かされていた。
当時は半信半疑で聞いていたが、まさかそれが役に立つとは――
「ねえ、誰?」
相手の顔を凝視しながら考え事をしていると、再び質問が投げ掛けられた。しかし、どのように答えていいのかわからない。
自己紹介をすればいいのか、それとも別のことを言えばいいのか。戸惑いの方が強く言葉を発せられないでいると、少年が思いっきり愚痴ってきた。
「僕が管理している敷地に入ってきておきながら、何も言わないの? それって、失礼だよ」
「……ご、御免」
こうなると、謝るしかできない。本当であったら反論ひとつしたいと思うが、自分がどのような世界にいるのかわからないので油断はできない。
それに、目の前にいる少年の正体もわからない。
心臓が激しく鼓動していたが、思考を働かせることに関しては冷静に行えた。
特に混乱はしておらず、俺にとってはその点は幸いだった。これなら、身に危険が及んだら逃げ出すことができる。
「何で、謝るの?」
「いや……ただ……何となく……えーっと……ああ、自己紹介だけど、俺の名前は菊池康之」
「別に、言いたくなければ言わなくてもいいよ。ただ、自己紹介をしてくれてありがとう。で、何の為にこの場所に来たの? 言ってくれないと、先に進むことができない。でも、それは面倒。人間は、回りくどい言い方をするから。待って、康之の心の中を読むから……」
そう言った後、少年は目を瞑る。相手の心を読み取る。
俺はアニメや漫画、それに映画に数多く登場する信じ難い力に、目を見開いた。
彼は、人知を超えた「超能力」と呼ばれている非現実的な力を持っているというのか。それを知った瞬間、冷静を保っていた身体が急に震え出す。