月光花

「いてー」

 尻に走る鈍痛に顔を歪めつつ服に付いた泥を叩きながら立ち上がると、壁の内側の状況を確認していく。

 目の前に立っているのは、堂々とした風格を見せる古びた洋館。その周囲に植えられている植物は好き勝手に伸び、俺が滑った雑草と合間って「ジャングル」というイメージを作る。

 このような場所の何処に、月光花があるというのか。花らしき植物は全て枯れ、元気なのは葉っぱのみ。

 しかし最初から諦めるわけにもいかないので、俺は洋館の正面に向かって歩みを進めることにした。

 その時、白い物体が横切る。

 それは小動物のように素早く、一瞬にして姿を消す。

 野生の生き物の住処となっているのだろうと自己完結をするが、何か胸騒ぎがするので一応確かめることにした。

 草に足を取られないように気を付けながら小動物の後を追うが、途中で見失ってしまう。

 だが、その途中で違う物体を発見する。それは温室と呼べるものか、俺は好奇心に促される形で温室の側へ行くと目を丸くしてしまう。

 驚いたことに、ビニールが切れておらず新品そのものだった。

 洋館から人が消えてから何十年も経っているというのに、ビニールが全く切れていないというのは常識的に有り得ない。

 何か特別な力が働いているのか――俺は中を覗き見るが何も見えない。

 果たして、この中に植物は残っているのか。俺は扉を軽く押し、中の状況を確認する。

 その瞬間、黒い物体が俺に向かって押し寄せてくる。そして、俺の視界から全てが消え去った。


◇◆◇◆◇◆


 闇に覆われた俺が今いる場所は「不可思議」という言葉が似合っていた。

 先程まで燦燦と照り付ける太陽が昇っていた世界にいたというのに、今自分がいる場所は闇が広がっている。

 それと、この淡い光は一体――

 それは白い蕾を持った花で、それも俺の周囲一面に存在していた。

 その花が全て光を放っているのだが、どの花も花弁は開いていない。

 ただ重い蕾を下に向け、丸々と膨らんでいる。

「……誰」

 その時、俺の耳に少年の声音が届く。

 俺は声が聞こえた方向に視線を向けると、十代前半の少年が此方を見ていた。反射的に俺は、身構えてしまう。

 少年の外見が、普通の人間と違っていた。この国の人間の瞳は黒というのが一般的であるが、少年の瞳は赤。

 それも、血のように赤い。
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