バスボムに、愛を込めて
コツコツと、歩道のアスファルトを鳴らすヒールは展示会のために低めを選んできた筈なのに、足取りは重い。
本郷さん、本気で怒ってた……
振り払われた手の感触と、突き刺さるような冷たい視線が忘れられない。
きゅ、と自分の身体を抱き締めるように縮めて、街灯の下を駅に向かって歩いた。
「美萌!」
そんな中、背後から軽快な足音が近づいてきて、あたしはぴたりと足を止めた。
終わったら連絡を――と言われていたのにそれを無視したから、こうして追いかけてくるような気はしていた。
だけど、今のあたしには孝二と喧嘩する元気も残ってないよ……
足音がすぐ隣で止み大きな身体が傍らに並んでも、あたしはうつむいて地面ばかりにらんでいた。
「お疲れ」
「……うん」
「余計なこと言いやがって……って思ってるだろ」
顔を上げると、曖昧に微笑んだ孝二と目が合う。
あたしはまた下を向き、首を横に振る。
「……いいの。元はと言えばあたしがあんな嘘ついたのが悪かったんだよ。だからこそ落ち込んでるの。全部孝二のせいにできたら本当は楽なのにね……」
おかしくもないのに、あたしはふふっと笑った。
そして、ちょうど通りかかっていた川にかかる橋の手すりに寄りかかり、孝二の顔を改めてきちんと瞳に映す。