HAIJI


 ハイジにはそれ以上の底はない。
 そんな中で、大和だけは何故か無条件に手を握れる存在であるのだ。
 例えば大和の目指しているものが日本国の滅亡であったとしても、ハイジにとってはどうでもいいことだ。
 ハイジが駒として遣われようが、銃弾の盾になろうが、少なくとも、それまでは大和はハイジを守るだろう。
 いざそうなってしまえば、いつどうやって死ぬかなんて大した差はない。
 少なくとも、大和は骨くらいは拾ってくれるのではないだろうか。
 確証も何もないけれど、死んでからなら確かめようもないわけで、大和がそうであって欲しいと望むのは勝手だろう。

 そもそも、既に親には捨てられ、世間からは疎まれ、人権を無くし、保護区域内であれば不衛生な環境に命を脅かされ、保護区域から出れば常に命を狙われる。
 すがり付く希望なんてとうに捨てた。
 「ある意味無敵だな」と言ったのは宵(ヨイ)だった。

 無くすものなんて何もない。
 唯一守るべき子供たちでさえ、簡単に死んでしまうのだから。






「一偉、大和!」


 大和が来た方から声がして、二人は振り返ると、女の子が走ってきた。


「幸埜(ユキノ)、」
「宵が、早く戻ってこいって!」
「? ああ、」
「何かあったのか?」
「佐々来が吐いてひどいのよ!」


 幸埜の言葉に二人は顔を見合わせる。
 大和は息を吐き出し、頭をガリガリと掻いてから幸埜の方へと走って行った。
 一偉もそれを追い掛けた。

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