HAIJI
「宵!」
大和と一偉が幸埜の後を付いて中心部にある広場へ行くと、隅の方で1人の男が横たわっていた。
傍には宵が片膝を付いて座っていて、子供たちも何人か心配そうに見ている。
「おせー」
「任せて悪かったな。佐々来は?」
大和が声を掛けると、宵は顎で横たわった男を指した。
「吐きまくってパニクって辛そうだったから、ちょっと眠らせた」
宵が左の拳を上げる。
「怒るなよ。俺に任せた大和が悪いと思うぜ」
「いや、スラムのやり方に異論はないよ。ありがとう。──一偉、」
大和は顎で横たわっている佐々来を指す。
一偉は息を吐き出すと「ラジャ、」と応えて宵の隣に膝を付いて佐々来の顔を覗き込んだ。
「随分な温室育ちだね」
「俺もそう思う。大丈夫かね」
一偉の反応に、宵が答える。
肌、髪の艶、肉付きや服装。
保護区域の外からすれば当たり前の姿なのだろうが、スラムに来るような子供の親が甲斐甲斐しく子供の世話をしている訳がない。
できないかやらないかのどちらかだ。
まともな身なりをしていることは、ハイジにとっては稀なのだ。
年齢、生活の落差のハンデは命取りになる。
「とりあえずできることはやる。でも、正直、本人次第だ」
一偉の言葉に大和が頷いた。
「また3ヶ月後に来るよ」
「祈ってて」
「ああ、」
そして──大和はスラムを後にした。