HAIJI
「この子はナナタ。君をずっと看病をしていたんだ」
そう言ってイチイがナナタの頭を撫でると、ナナタは照れたように肩を竦める。
「あ、あのね、ササライ!お腹空いたでしょ?ご飯があるよ!」
ナナタは思い出したように傍から離れ、部屋から出て行った。
多分、いや、間違いなく何か食べるものを持って来るのだろう。
正直、食べられる気はしない。
それはそうだろう。
さっきまで吐いていたのだ。
胃が重い。
ナナタの背中を見送りながら、持ってきた食べ物をどうやって傷付けずに断ろうかと思案していると、イチイがそれを読んだように口を開いた。
「少しでいいから食べてやってくれないか?」
「え?」
「ナナタ、ササライのことをすごく心配してる」
“心配してる”?
イチイを見上げる。
「実の兄貴とここに来たんだけど、兄貴は何も食べられなくて、衰弱して死んだんだ」
「……、」
「ちょうどササライくらいだったし、重ねているのかもしれない」
狡いな、と思った。
ここは、狡い。
自分の意思とは違うところに誘導されているような感覚に晒される。
僅かばかりの正義であったり善であったりを試されているような気さえして、面白くない。
ナナタの顔が浮かぶ。
あの顔を殴れるようなら、人生は楽しいだろうか。
いや。
そういえば、スラムの外にはそんな人間は沢山いたのだ。
朝、ハイジが肉の塊になっているところをたまに見かけた。