HAIJI



 スラムに来てはじめての朝を迎えた。
 目が覚めて、まず始めに時間が気になった。
 太陽の高さ、肌寒さからいってまだかなり早い時間だと思ったが、すぐに、わかったところで何の意味もないことに気付く。

 外からすでに子供たちの声が聞こえてくる。

 五感の全てを使って現実を理解しようと努める。
 ここでしか生きていけない。
 「保護者」に捨てられたのだから。
 だから、スラムしかない。
 俺は、ここで生きていかなきゃいけない。



 戸惑っている──それが正直な感想だ。










「おはよ。よく眠れた?」


 部屋の外に出ると、女の子が話しかけてきた。
 日に焼けた肌に大きな目が印象的だった。


「ユキノよ。よろしくね、ササライ」


 ユキノ。
 聞いたことのある名前だった。


「あ、ミートスパゲティ作ってくれた…」
「缶詰だけどね」
「お粥も君が?」
「ユキノ!そう。私は皆のご飯を作ってるの」
「ユキノ。…ありがとう」
「あんまり美味しくなくてごめんね」
「そんなことない。食べやすくて、助かった」
「よかった」


 ユキノの笑った顔はまだ幼かった。


「ナナタがササライが起きるのを待ってたわ。大して広くはないけど、ナナタとスラムの中を案内するわ。あと、子供たちも紹介する」


 ユキノは立ち上がると、ナナタを呼んだ。
 ナナタは跳びはねながら走ってきた。
 明るい空の下で見たナナタはやっぱりまだ本当に子供だった。

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