HAIJI


 改めて見たスラムの世界。

 青いフェンスの中は、それなりの製造工場が建ちそうなくらいの広さだった。
 昨日入ってきた入り口は太陽の方角からして南側。
 北側奥には森が隣接するような形で東西300メートル、奥行きで100メートルほどの広さはあるようだ。
 入り口から右手に、バラック小屋がそれなりの秩序をもって並んでいる。
 俺が寝ていたのは少し小綺麗なプレハブ小屋で、奥の方、つまり森側。
 更に奥に、もうひとつあるプレハブ小屋はイチイの場所だと教えてくれた。


「大事なものも沢山あるから、あんまり勝手に入らない方がいいわ。無くしたり壊したりしたら困るから、ヨイも一人じゃ入らないもの」


 そこから向かい合う形で長屋のように伸びるバラック小屋。
 皆の寝床が2ヶ所。食糧庫、台所。作業場では男が大工仕事などもするようだ。
 一番手前は“白い部屋”と言った。


「ここは怪我したり、病気をした人の部屋」


 ユキノの声が低くなった。
 ナナタが俺の手をギュッと握る。

 ああ、そうか。
 ここにナナタのお兄さんがいたのだ。


 すると、一人の男が入り口の布を捲って顔を出した。
 長めの前髪に隠れた顔はよく見えないが、俺と同じくらいの年頃だろうか。


「ロンド、ササライよ。ササライ、こっちはロンド。ロンドも最近ここに来たの」
「……、」


 ロンドと呼ばれた男は一瞬だけ俺を見たかと思うと、すぐに視線を外した。

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