HAIJI
山の墓は、本当に数えきれない程あった。
山の数だけハイジは死んだのだろうか。
いつから。
柔らかい風が吹いた。
砂が舞う。
立派な墓石はない。
外と、何が違うんだろう。
少なくとも、数年前に行った派手な遠縁の親戚の葬式よりはマシな気がした。
とても滑稽だ。
喧嘩のもとになる遺産なんて、ない方がよっぽど幸せなんじゃないだろうか。
親戚は、故人に、こうやって話掛けることはあるのだろうか。
例えば遺産が無ければ、彼らはどうなっていただろう。
あの涙は、どんな意味を持つのか。
そう考えて、大好きな兄が死んだとき、ナナタはどんな風に涙を流したのかふと気になった。
そして、他のハイジたちは──
木の墓標には、『六汰』という名前が彫られていた。
六汰──ロクタ、か。
そして、ナナタ。七汰。
ハイジたちの名前には漢字が当てられていることを知った。
俺の名前は、どう書くのか聞いていない。
「今日は雨が降りそう」
ユキノが、空を仰いだ。
空は高い。
風が少し湿っていることに、その時はじめて気が付いた。