HAIJI

 “強く”

 こんな細い身体で。

 とても健気だ。


 だけど、理解し難かった。











 生きるためには強くなければいけないだろう。

 けれど、同時に賢くなきゃいけない。

 自分以外の誰かのために危険を犯すことは明らかに賢いとは言えない。

 ナナタがヨイやミカドのように外に出られるように訓練したとしても、10年くらいはかかるのではないだろうか。
 それまでスラムがこのままだとは思えない。
 時代の流れは早い。
 10年。
 ずっとスラムと外の関係は変わらないのだろうか。
 ハイジの人権が守られる時代はくるのか。
 それとも、どんどん悪くなるのか。
 政治か。
 革命か。
 ハイジの性質も変わるかもしれない。

 10年後。
 俺はどうなっているだろう。
 27歳。


 生きるか死ぬか。それしか──


 生きているのだろうか。

 俺は、ナナタのように10年先のことまで考えられそうにない。


「ササライ、」
「うん?」
「シチュー、食べないの?」


 言われて、視線を皿に落とした。


「あ、食べるか?」
「え、あ、いや。違うよ。ササライが食べて」
「?」


 ナナタの皿はもう空だった。
 足りなかったに違いない。
 そう思って言った。
 これくらいの年ごろはシチューなんて好物ではないのだろうか。


「レトルトだよ。ササライでも食べられると思うんだ。それとも、食べたくない?」

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