HAIJI


 もっとしっかりしろって。
 そうすれば、生意気だって言えるのに。
 まぁ見てろよって強がることもできるのに。

 だけどユキノは絶対に言わない。
 ただ、待っている。

 自分が立ち上がるためです明らかに年下の女の子に頼らないとエネルギーの出し方もわからないなんて。


 結局俺は、一人では何もできないのだ。

 一人で生きていくことはできないのだ。


「ササライ、」


 変わらない声で、ユキノが呼ぶ。
 わかっている。
 風邪を引くだけで命取りなのだ。
 守らなければならない。
 自分の身体は自分で。
 それが今俺が求める一人で生きるということなはずなのに。
 それすらできない。


 ふ、と、ユキノが笑った。


 こんな少女に何がわかるんだろうと思うのと同時に、俺の弱さも、辛さも、全て見透かされているような気になる。

 雨が強くなる。

 空に視線を戻した。

 顔に当たる雨粒。

 左手に温もりを感じた。

 小さな温もり。

 喉が熱くなった。

 眉間に力が入る。

 雨はずっと俺の顔を濡ら続ける。

 ユキノは急かすこともなく、しばらく一緒に雨を浴びてくれた。

 いつしか俺の左手に力が籠っていた。


「ユキノ…、」
「うん?」


 雨に濡れた顔を拭う。


「…中に、入ろう」
「そうだね」


 変わらない表情に、心からホッとした。

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