地の棺(完)
桔梗さんの横顔は、名工の手によって創り出された彫刻のように整っていて、黒い髪が萌黄色の着物によく映えた。

右手は初ちゃんの額におかれたまま、空いた左手で長い髪を右側にまとめる。

透き通る白いうなじが妙になまめかしくてドキッとした。


「なに? 私に見とれてるの?」


不意に話しかけられ、慌てて体を起こした。

椿さんの黒曜石のような瞳と目が合う。


「あっ、その……」


「ふふっ いいのいいの。慣れてるから」


椿さんは楽しそうに微笑み、再び視線を初ちゃんに戻した。

焦ったけど、話すきっかけができたことにほっとする。


「聞いてもいいですか?」


「なぁに?」


「椿さんはなんでここで暮らしてるんですか?」


うまい言葉が見つからなくて、単刀直入に尋ねた。

椿さんは振り向くことなくクスクスと笑っている。


「初と一緒にいたいから」


初ちゃんと?

今だ目覚める気配のない初ちゃんに目線を向ける。

初ちゃんは手が痛むのか、眉間に皺を寄せたまま目を閉じていた。

その寝顔を見ていると、胸がズキッとする。

椿さんと初ちゃんは恋人同士なんだろうか。

ちくちくと痛む胸を押さえ俯くと、椿さんの笑い声が部屋に響いた。


「なーんてね。嘘嘘。この子とはそんなんじゃないのよ。わたしは神原センセ一筋」


神原さんを?

そういえば椿さんに初めて会った時、神原さんとかなり親しい空気だったけど。

でも、椿さんと初ちゃんって……

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