弟矢 ―四神剣伝説―

五、心に響く声

「もう、いいだろ? 引けよ、宗次朗」


乙矢の張り詰めた声が、膝をついた宗次朗の頭上に注がれた。


宗次朗はこの時を待っていたような気がする。


終わりを――。


『白虎』の勇者が現れて、『朱雀』に選ばれた自分を滅ぼしてくれる日を。


にもかかわらず、肝心の勇者である乙矢は、斬り捨てず「引け」と言う。


「なぜ斬らぬ……私を斬るのは、お前の宿命ではないか!?」


宗次朗の問いに乙矢は首を左右に振った。


「宿命なんぞくそ喰らえだ。俺は誰も斬りたくないし、殺したくもない。俺は、誰かに勝ちたいなんて思わない! 大事な人たちを守りたいだけだっ!」


押し殺した声で乙矢は叫ぶ。


そんな乙矢を無視し、宗次朗は左腕に『朱雀』を持ち替え反撃に出た。

しかし、乙矢のほうが早かった。

威嚇のつもりで宗次朗の鼻先を一閃する。そして、宗次朗の体が泳いだ隙を狙い、喉元に『白虎』の切っ先を突きつけた。ピタリと狙いを定めたまま剣を止める。


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