祈りのいらない世界で〜幼なじみの5人〜【実話】
カゼがキヨの手を掴むと、キヨの瞳からは涙が溢れていた。



「………どうした?恐い?キヨ初めて?」



キヨは首を振る。




「…カゼ。嘘でもいい…嘘でいいから“好き”って言って」



キヨの言葉に疑問を抱きながらカゼは呟いた。




「………キヨ。好きだよ?」



優しい声で呟いたカゼ。

しかしキヨの涙は止まらない。





「………どうした?」

「…違う…違うの。私が聞きたいのと違う…」

「………何が違う?」

「…イノリじゃない。言ってくれる人がイノリじゃないっ…」




キヨはイノリと体を重ねたあの日

イノリが言ってくれた『好きだ』の言葉が忘れられないでいた。




キヨにとってあの言葉は一夜限りの夢のような言葉。

もう二度とイノリの声では聞けない愛の言葉。




でも、だからこそ…

何よりも大切な言葉。






「…裏切られたのに。イノリはっ…私を簡単に裏切ったのに…私は……イノリへの想いを裏切れないよ。裏切りたくない…」


「………キヨ。そんなにイノリの事…」


「ごめんね、カゼ。変な事頼んでごめんねっ。ごめんなさい…」




キヨが止まらない涙を一生懸命手で拭うと、その姿を痛々しく思ったカゼは眉を寄せた。





「………ごめん。俺…」

「え?……やっ!?カゼっ嫌だ!っやだぁぁぁぁぁぁ!!!!」




カゼは頭を下げると嫌がるキヨと体を重ねた。






嫌だ…
嫌だ嫌だ


イノリじゃない…

カゼはイノリじゃないっ!!




カゼは好きだよ、大好き。



でも…
愛してはいない…。








お願い、カゼ。

これ以上私を惨めにしないで…






私は…

どれだけ自分がまだ

イノリを愛してるかなんて



知りたくないんだよ…









ホテルの部屋にはキヨの携帯の着信音が虚しく響いていた。
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