捨て猫にパン
───ドンッ!


「気持ち悪りぃことすんなよッ、オヤジ!!」


「な、何だお前はッ!オ、オレは痴漢なんてしてないぞッ!」


「じゃ、何だよコレ?爪立てられて掻きむしられた手って、どう説明すんの?」


「オ…オレじゃないッ!!」


「君、爪立てた?」


「…っ…っ…」


あたしは泣きながら頷く。


「どーすんの?駅員室行ってケーサツだぜ?」


「オレじゃ…オレはしてないッ!」


「ま、いいや。はっきりさせてやるよ。君、ケーサツとかに事情話せる?」


…えっ………。


どうしよう…。


どこに何をされたか、細かく話さなきゃいけないって、コト…?


ヤ…無理だよ…。


屈辱の上塗りなんて、できっこない。


「…っ…っ…。言え…言えないです…」


「わかったよ。有罪だけど放免だとよ。二度とすんな、クソオヤジッ!!」


俯いたままのあたしの目に2人の交差する足だけが見えると、


「こ、こっちが被害者だからなッ」


うわずったオヤジの声だけが耳障りにこびりついた。
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