捨て猫にパン
「オレはさ、ちゃんと時間かけてさ、ちゃんと真琴自身が自分を確かめられる気持ちの余裕を待ちたかった。行きづりでも気まぐれでもなく、オレがここにいることをわかってほしかった。隣にさ、呼べばいつでもすぐ傍にさ。こんな風に君の涙を拭えるのはオレだけだ、って、そんな気持ちを固めてほしかった」


そう言った優しい大きな手があたしの頬の涙をすくう。


「いつも君は涙に濡れてるね」


悲しく響かせたその唇が近づいて。


あたしが受け入れたキスの味は───涙の味。


涙が。


止まらない。


瞬きのシャッターすらきれない。


今、感じるのは。


あたしの頬を支える倉持さんの左手の体温。


あたしの唇をふさぐ静かな吐息と、倉持さんのぬくもり。


遠くに花火の音が聞こえて。


ぎゅぅ───って抱き締められて重なる2人の鼓動。


「遅いかな」


頬に置いた手があたしの右手のリングに触れる。


「いつまでも待つから言うよ。オレは君が、真琴のことが───好きだよ」
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