過ちの契る向こうに咲く花は
「その行動って、そもそも私の人生になにか弱味があること前提ですよね。そういう判断ってどこからするんですか」
 伊堂寺さんレベルにもなると、私みたいな人間はそれだけで格下になるものだろうか……なるものなんだろう。
「別に野崎だからどうこうではない。弱点がない人間などいないだけだ」
 ばっさり切り捨てられた。
「伊堂寺さんにも?」
「当たり前だ」
「例えばなんですか」
「聞いてどうする」
「いや、私も手持ちのカードを増やしておこうかな、と」
 私のことばに、ちょっと驚くぐらい顔を歪められた。純粋な嫌味は効くらしい。

「悪かった」
 きっとそういう思考に至るには過去になにかしらあったからか、そもそもそういう環境にいたからなのだろう。嫌な思いはするけれど、完全悪だとも言えない。そうはわかっていても、やる相手を考えて欲しい。
 私ってそんな嫌な女に見えたのだろうか。

「そのことに関して許してくれとは言わん。俺もそれ以上の弁明はしない」
 この姿勢はずっと変わらない。だからほんとうに、しかたがないことなのかもしれない。彼もしくは彼らの世界では。
「野崎のほうが父への心証がいいと思ったのも事実だ。破談になった場合のいいわけも考えやすいと思った。引き止めにくいだろうとも予想した」
 大方、やはり母のことが、とか言えば深追いはできないとかだろう。
 もうひとくち紅茶をすする。

「だがそれだけでわざわざ野崎すみれとの破談を選べない。一応形だけとはいえ決まったことだったしな、それをうまくまとめつつ納得させるのはさすがに面倒だ」
「なんとでもなる、と仰ってましたが」
「なんとかする、が正確なところだな」
 ため息が出た。いやここは私のためにありがとうございます、という感じで感動したりきゅんとしたりする部分なんだろうか。少女マンガ的ヒロインならそうなのだろう。ただ私はそんな価値を自分に見出せない。

「ではお聞きしますが、そんな七面倒くさいことまでしてどうして」
 自分から聞くのもなんだか情けないような気がしたけれど、ここまで来ていい子ぶるのもヒロイン気取るのも違う気がしてきた。
 私はたぶん、どんな内容であれ結果であれ、このよくわからないもやっとした気分をなんとかしたいのだろうと思う。
 というか伊堂寺さんと話していると、地味に体力を削られていくようで、なんとかせねば、と思うのかもしれない。
 
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