闇に響く籠の歌
エピローグ
3のつく日に続いていた変死事件は終わりを告げようとしていた。その日、水瀬は花束を抱えると妻である深雪が落ちた場所へと足を向けている。そこに佇んでいる人影。それに気がついた彼はフッと口元に笑みを浮かべると、その相手に近寄っていた。


「圭介君、久しぶり。まさか、君がここに来てくれるとはね」

「お久しぶりです、水瀬さん。ちょっと、気になることがあって……」


そう言う圭介の声がどことなく歯切れが悪い。そう思った水瀬だが、気にする様子も見せず、言葉の続きを促していた。それに対して、圭介は言葉を探すようにして話し続ける。


「実は、あの事件の本当の犯人って別にいるような気がして……」

「そうなんだ。じゃあ、圭介君はあれが柏木さんがやったことじゃないって思うんだ」

「そんなこと言ってません。実際、やったのは柏木さんだと思います。でも、彼一人であれだけのことができたのか疑問なんですよね」


圭介のその言葉に水瀬は「そうなの?」と呟くだけ。そのまま、彼は持っていた花束を地面に置いていた。


「じゃあ、圭介君はどうしてそう思ったの?」

「ま、一番はあの時の水瀬さんの顔」

「僕の顔?」

「ええ、あの時、水瀬さんはニヤリと口角を上げていた。まるで、柏木さんが自殺するのを知っていたみたいに」


圭介のその声に水瀬は興味深そうな顔をみせる。そのまま、彼はゆっくりと口を開いていた。


「圭介君って面白いこというね。じゃあ、僕は刑事なのに犯人が死ぬのを知っていて、それを止めなかったってことになるよね。そんなことあると思ってるの?」

「信じたくはないんですがね。でも、柏木さんがあまりにもいろいろなことを知りすぎていると思って」

「そうなんだ。でもね。僕は何もしていないよ。というより、あの親父さんが目を光らせているんだ。馬鹿なことはできないよ」

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