ロスト・クロニクル~前編~

 この調子であったら、ラルフを食べてしまうのは時間の問題だろう。

 このような相手であっても、友人には違いない。

 その人物が食われてしまうとなったら、目覚めが悪い。

 ラルフの性格を考えると夢枕に立つ可能性が高く、毎日のように立たれたら悪夢の何ものでもない。

 思考が悪い方向へと向かうにつれ、顔を歪ましてしまう。

 刹那、しゃがみ込んでいたエイルが立ち上がった。

 唐突な行動にラルフは戦き、エイルの顔を凝視する。

 一方フランソワーも、身体を震わせていた。

 エイルがいる限り、フランソワーはラルフを食おうとはしない。

 しかしエイルは、フランソワーを自室に入れるつもりはない。

 そうなるとフランソワーは、元飼い主であるラルフと一緒となってしまう。

 一人と一匹になった瞬間、真っ先に噛み付くだろう。

 そうならない為にも、故郷に帰す計画は早めに進行したい。

 エイルはラルフの襟首を掴むと、強制的に図書室から連れ出す。

 一方、取り残されたフランソワーは「静かに此処にいろ」という命令を守る為、図書室の隅に向かうった。

 そして、計画の第一段階が開始される。


◇◆◇◆◇◆


「セリア先生って、恐いんだろ?」

「恐いよ。特に、物事の道理に反した生徒は」

「それって、俺かな?」

「自覚していないのなら、困るな。本当に、僕より年上なの?」

「一歳なら、大した差はないよ」

 強制連行されるラルフの姿は、授業を終え溢れかえる生徒達のいい見世物だった。

 その為、小声で噂話をする者や大笑いする者もいる。

 それに、苦笑いを浮かべ「またか」と呟く者もいた。

 エイルがラルフを連れて行くこの光景は、メルダースでは日常のひとコマとなっている。

「恥ずかしいな」

「僕は、慣れたよ」

「エイルは連れて行く方だから」

「恥ずかしいと思うのなら、二度としないことだよ。それとも、僕が代わりに説教をしてあげようか」

 正論を述べるエイルに、ラルフは口をつむぐ。

 頭でわかっていても身体がそれに伴わない。つまり、感情で行動する結果がこれなのだ。

 フランソワーの件も、感情が招いた。

 「可愛い」という理由から寮でオオトカゲを飼育し、挙句の果てには飼い主を放棄。

 今回の最大の被害者はフランソワーといっていい。


< 40 / 607 >

この作品をシェア

pagetop