ロスト・クロニクル~前編~
この調子であったら、ラルフを食べてしまうのは時間の問題だろう。
このような相手であっても、友人には違いない。
その人物が食われてしまうとなったら、目覚めが悪い。
ラルフの性格を考えると夢枕に立つ可能性が高く、毎日のように立たれたら悪夢の何ものでもない。
思考が悪い方向へと向かうにつれ、顔を歪ましてしまう。
刹那、しゃがみ込んでいたエイルが立ち上がった。
唐突な行動にラルフは戦き、エイルの顔を凝視する。
一方フランソワーも、身体を震わせていた。
エイルがいる限り、フランソワーはラルフを食おうとはしない。
しかしエイルは、フランソワーを自室に入れるつもりはない。
そうなるとフランソワーは、元飼い主であるラルフと一緒となってしまう。
一人と一匹になった瞬間、真っ先に噛み付くだろう。
そうならない為にも、故郷に帰す計画は早めに進行したい。
エイルはラルフの襟首を掴むと、強制的に図書室から連れ出す。
一方、取り残されたフランソワーは「静かに此処にいろ」という命令を守る為、図書室の隅に向かうった。
そして、計画の第一段階が開始される。
◇◆◇◆◇◆
「セリア先生って、恐いんだろ?」
「恐いよ。特に、物事の道理に反した生徒は」
「それって、俺かな?」
「自覚していないのなら、困るな。本当に、僕より年上なの?」
「一歳なら、大した差はないよ」
強制連行されるラルフの姿は、授業を終え溢れかえる生徒達のいい見世物だった。
その為、小声で噂話をする者や大笑いする者もいる。
それに、苦笑いを浮かべ「またか」と呟く者もいた。
エイルがラルフを連れて行くこの光景は、メルダースでは日常のひとコマとなっている。
「恥ずかしいな」
「僕は、慣れたよ」
「エイルは連れて行く方だから」
「恥ずかしいと思うのなら、二度としないことだよ。それとも、僕が代わりに説教をしてあげようか」
正論を述べるエイルに、ラルフは口をつむぐ。
頭でわかっていても身体がそれに伴わない。つまり、感情で行動する結果がこれなのだ。
フランソワーの件も、感情が招いた。
「可愛い」という理由から寮でオオトカゲを飼育し、挙句の果てには飼い主を放棄。
今回の最大の被害者はフランソワーといっていい。