ロスト・クロニクル~前編~

 レポートを食われてしまったエイルも不幸であったが、こんないい加減な人間に飼われたフランソワーは更に不幸だ。

 違う人間に飼われていたら、別の違う人生を送っていたに違いない。

 ラルフの周辺にいる者達は、その人生を狂わす。

 本気でそのように思いはじめるエイルだったが、そこまで言ったら可哀相だと敢えて言わなかった。

 だがこれ以上酷くなった場合、言うしかない。

 いや、ラルフは言ってもわからない。

 それなら、叩いて教え込む。

 これに関して、誰も文句は言わない。

 寧ろ「やっていい」という返答が得られるだろう。

 これを実行するかしないかは、これから態度で決まる。

 流石にセリアの前で言い訳をしないと思うが、ラルフは相手が誰であろうとそれを行う。

 つまり、それだけ呼び出しと説教の回数が多いということだ。

 そうなると、今回も言い訳は確定である。

「その前に、ジグレッド教頭のところに行こうか」

「うっ! そ、それは……」

「嫌だとは、言わせない。フランソワーの件だって、個人がどうこうできる問題ではないだろ。やはり、ジグレッド教頭に相談しないと。それとも、お前が何とかできる問題かな?」

「わ、わかったよ」

「宜しい」

 満面の笑みを浮かべるエイルは、徐々に黒く染まっていく。

 この一面を見せた場合ラルフは、大人しく従うしかなかった。

 歯向かったとことで、勝ち目などない。

 それは、付き合ってから嫌というほど学んだ。

 しかしそれは表面上の意味合いであって、本質を見抜くことはない。

 エイルはジグレッドの私室に続く扉の前に立つと、大きく深呼吸し気持ちを落ち着かせる。

 その後、軽く扉をノックした。

 だが、返事はない。

 不思議に思い再びノックするが、やはり応答はなし。

「きっと留守なんだよ」

「煩い」

「エイル君、痛いよその台詞」

「手を上げるよりは、いいだろ? そんなことよりも、黙っていろ。お前が喋ると、話はややこしくなる」

 その一言でラルフを黙らせると、どうするべきか考え込む。

 ジグレッドが出張という話は聞いておらず、それにこの時間帯は部屋にいることが多い。

 教頭の性格を考えると悪戯をするような人物ではないので、何かに集中していてノックの音が聞こえないということだろう。


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