ロスト・クロニクル~前編~
(入らないわけにもいかないし……仕方ない、入ろう。いなかったら、その時はその時だし)
フランソワーの今後の処遇について相談する他に、エイルは個人的に質問をしたいことがあった。
それは、悪友であるラルフについて。
「何故、退学にしないのですか」それは、一度は聞いてみたい内容であった。
それはエイルだけではなく、大勢の生徒が疑問を抱いている。
考えた末、エイルは「失礼します」という言葉と共に、勝手に入室する。
勿論、褒められた行動ではないが仕方がない。
入室と同時にエイルは、室内の状況に驚かされる。
教頭の部屋はいつ見ても綺麗に整頓されており、使用者の性格が反映されているのか、机の上や床もキチンと掃除され塵ひとつない。
一度、部屋を汚した生徒が罰としてこの部屋の掃除をさせられたという話を聞いたことがあるが、噂程度で聞いた話なので信憑性に乏しい。
だが、丁寧に掃除されている部屋を見ると嘘ではない。
ゆっくりと扉を閉めると、視線を部屋の中心に向ける。すると机に向かい仕事をしているジグレッドが、視界の中に映り込む。
どうやらエイルの予想通りに、物事に集中しているようだ。
名は、ロバート・ジグレッド。
五十後半の初老の男性で、現役時代には数々の功績を得たという話が残る有名人。
しかしそれは過去の話で、今は生徒達の間で「口煩いお爺ちゃん」や「説教が長い人」と言われ、優秀な魔導師だったというのは“おまけ”だと思っている生徒が多いのが実情だ。
だが、メルダースで教頭の席に座っているのだから、実力は確かなものだろう。
中途半端な人間が、このような席に座ってはいられない。
それだけ教頭の立場は、高い実力を必要とする。
ジグレッドが魔法を使用するところは見たという生徒はいないが、一度は見てみたいと思うのが真情。
魔法を学ぶ者として有名だった人物の魔法をその目で見ることは、何よりも勉強になる。
「エ、エイル」
「説教タイムスタート」
「やっぱり」
「何回目?」
「覚えていない」
「お、お前な……」
小声での会話であったが、静まり返った空間では響いてしまう。
それでもジグレッドは真剣な表情で書類を書き続け、エイル達が入室してきたことに気付いてはいない。
仕事が待つまで終わるというのも方法であったが、どれくらい時間が掛かるかはわからないので、エイルは思い切って声を掛けた。