ロスト・クロニクル~前編~
「教頭先生、宜しいですか?」
「うん? ああ、君か。どうした」
「その……ご相談したいことが、ありまして……少し長くなってしまいますが、聞いて下さい」
襟首を掴まえていたラルフをジグレッドの前に連れ出すと、今まであった出来事を全て話していく。
その内容に、ジグレッドの表情が徐々に変わっていく。
それは怒るというより呆れ顔で、毎回のことに言葉も出ないらしい。
そして説明をしているエイルの表情も、同じであった。
「なるほど。それがいいだろう」
「それで、お願いが――」
「資金面のことか」
「は、はい。本当はラルフが全額負担するべきでしょうが、学生の身分でお金はありません」
「迷惑を掛ける生徒だ」
フランソワーの存在はジグレッドも悩みの種であり、頭痛の原因となっていた。
あのような生物が学園の中を歩いている自体ありえないことで、他の生徒達も迷惑をしているのは確か。
今まで生徒に噛み付いたという報告がないのがせめてもの救いだが、もし噛み付いたという事件が発生したら――大事になってしまう。
それに、卵を産むという条件付き。
ことは早い方がいいと、ジグレッドは言う。
そう、誰もオオトカゲが繁殖してほしいとは思わない。
「あのオオトカゲは、飼い主を見捨てました」
「見捨てた? どういうことだ」
「所謂、野生の掟に従いました」
エイルのどす黒いオーラによって、飼い主を裏切ったということは言えない。
あのオオトカゲを服従させた人物という悪い噂を、広げたくなかったからだ。
温和なイメージのあるエイル。
おかしな噂は今までの良い噂を一変させてしまい、それは卒業するまで付きまとう。
エイルは多くの生徒と同じように、入学当時から寮で生活をしていた。
つまり外から通ってくる一部の生徒とは違い、一日の大半を学園で過ごすといっていい。
噂は本人が存在して成り立つものであって、噂の主に人物が存在しなければいつの間にか消え去ってしまう。
エイルは、学園から逃げるということはできない。そして、噂は簡単に消滅しない厄介な代物。
それに、噂の対象がエイルというのも原因のひとつ。
留年なしに進級や女子生徒に人気など嫉妬される要素が多いので、そのことから面白おかしく噂を流す者の存在を危惧する。