ロスト・クロニクル~前編~
「今は、ラルフの命令は受け付けません」
「うむ、そうか。で、これはどう思う」
差し出された資料を受け取ると、エイルは黙読していく。
次の瞬間、表情が一変する。資料に書かれていた内容が気に入ったのか、口許を緩めると「いいと思います」と、嬉しそうに返事を返す。
その反応を不思議に思ったラルフは資料を奪い取ると、声を上げ文字を読んでいく。
「国営生物研究所のご案内」
「この施設に、送るということですね」
「オオトカゲの処遇は、前々から問題になっていた。勿論、学園長も賛成している。よって、金は出せる」
「この施設には専門の人達がいるから、安心して任せることができるよ。それに、お前は……」
その後の台詞は、敢て言わない。
裏切りという言葉を何度も繰り返していたら、しぶといラルフもいじけてしまう。
それに学園長の賛成を得られているのなら、フランソワーの輸送は今週中に行える。
今はエイルの言うことを聞いているが、誰の言うことも聞かなくなった時が恐ろしい。
最悪の場合、学園中の生徒や教師を襲いはじめる。
野生の本能が目覚めた今、油断はできない。
「この研究所は、どのような場所ですか」
「生物研究といっても、主に生態調査を行っている場所のようだ。今回のことについて話したら、快く引き取ってくれると言ってくれた」
国営の研究所。それなら信頼も篤く、おかしな生体実験も行われないだろう。
すると何を勘違いしたのか、フランソワーが実験材料に使われると思ったラルフは連れて行くことを拒否し、部屋から飛び出してしまう。
「人の話を最後まで聞かぬ奴だ」
「追いかけます」
「いや、君が言っていたことが正しければ、オオトカゲは彼には懐かない。なら、安心だろう」
「そうでした。ラルフは、見捨てられました」
「今頃、手荒い歓迎を受けているだろう」
「ラルフは、簡単には死にません」
「本当に、人間とは思えないな」
その言葉と同時に、ラルフの甲高い悲鳴が響き渡った。
どうやらシグレッドが言う、手荒い歓迎を受けているのだろう。
フランソワーが行う歓迎は、ただひとうしかない。
相手に噛み付いてその肉を食らおうとする。
しかしラルフは、肉の一部が無くなっても生きている可能性が高い。