ロスト・クロニクル~前編~
強い相手からの命令は絶対。
それにエイルからの命令となれば、従うしかない。
そう、彼に絶対の服従を示していた。
フランソワーは高々と尻尾を振り上げると、気絶するラルフの後頭部をめがけ振り落とす。
その瞬間、生徒達の間から悲鳴が響いた。
しかし――
「フランソワー!」
後頭部に尻尾がぶつかる瞬間、エイルが動きを静止する。
やはり“もしも”という可能性があるので、この計画は中止することにした。
それなら、どのようなことをして目覚めさせるか。
手っ取り早い方法として、抓って起こす。
それは原始的なやり方あったが、確実であった。
「だ、誰だ! 頬を抓るのは」
「おはよう。目覚めは、どうかな?」
「はっ! エイルじゃないか」
「そうだよ。お前の様子を見に来たんだ」
「様子? 何があったのかな?」
間抜けな反応に、エイルは溜息をもらしてしまう。
一方、周囲で見ている生徒達は大笑い。
自分の周囲に集まる生徒の多さに驚くラルフは何があったのか質問するが、誰も答えてはくれない。
「この反応、何?」
「覚えていないのか?」
「何が?」
「お前は、フランソワーに噛まれて……いや、一箇所は殴られていた。それで、生きているよな。流石、タフな肉体」
「あっ! 噛まれたんだ」
「痛くないのか?」
「そういえば、身体が痛い」
どうやら後頭部を殴られた衝撃で、数十分間の記憶が失われてしまったようだ。
エイルは「ジグレッドの私室で話したことを覚えているか」と尋ねると、大声を発し暴れ出していた。
フランソワーを助ける為に図書室へ向かったのだが、酷い仕打ちを受けてしまう。
そのことを思い出したラルフであったが、少しだけ残されていた愛情によってフランソワーをかばいはじめる。
深い意味合いを知らない者がラルフの姿を見たら涙を流してしまうだろうが、エイルは冷ややかな視線を向けてしまう。
所謂、何がしたいのかわからない。
これもまた、ラルフの理解不可能な行動の影響だろう。
エイルは盛大な溜息を付くと、フランソワーをかばう意味を問う。