ロスト・クロニクル~前編~
「はい。これで終わり」
「有難う……ございます」
高熱の原因は、噛まれたことによる細菌感染。
あの種類のオオトカゲは、口の中に大量の悪性の菌を飼育している。
オオトカゲ本人はその菌に感染することはないが、噛まれた相手はひとたまりもない。
野生のオオトカゲは相手に噛み付いたと同時に傷口から菌を相手の身体に入れ、徐々に体力を奪い取り最終的には殺してしまう――
という狩の方法を取っている。
つまりラルフは、フランソワーに狩られた。
「普通なら、死んでいるわよ」
「は、はい……」
「体力には、自信ある?」
「多少は」
オオトカゲに噛まれた人間は、まず助からないと言われている。
最悪の場合は即死で、ラルフのように助かる人間は奇跡としか言いようがない。
助かった主な理由は、並外れた体力と運。
持ち合わせている運だけは人一倍高く、あとは少しだけ残されたフランソワーの愛情だろう。
「次は、気を付けなさい。と言っても、学園でオオトカゲの飼育は禁止」
「わ、わかっています」
熱に魘され寝台に横になっている時、エイルからそのことを聞かされた。
「巨大生物の飼育は禁止」このような禁止事項を作るとは思わなかったジグレッドは、書類の上に走らせていたペンを折ったという。
「怒っているわね」
「うっ!」
「素直に謝りなさい。聞いた話によると、教頭の説教を逃げたそうじゃない。あの方は、貴方のような人間は嫌いと言っているわ」
「教頭の説教は長いし、傷に響くと思うから……」
傷は、まだ完治していない。
相当深く噛まれたらしく、治るまで数週間は要するだろう。
そんな状態で長い説教を聞いたら、治るものも治らない。
寧ろ悪化し、再び寝込んでしまうとラルフは語る。
「ひとつ良いことを教えてあげるわ。教頭は逃げている生徒の場合、私室まで押しかけ説教をするそうよ。気をつけなさい。貴方は確か寮生活でしょ。押しかけるには、都合が良い距離ね」
同じ説教を受けるのなら、エイルの方が数倍マシであった。
エイルの場合は、一応手加減をしてくれるのだが、ジグレッドの場合は手加減などしてくれない。
年齢に比例して説教の時間が長くなると言われているが、ジグレッドはまさにいい見本であり一回の説教がやたら長い。