ロスト・クロニクル~前編~

 多分、エイルが言うように「毒が拒絶反応」を起こした可能性も考えられる。

 何せ不可解な事例に医師も首を傾げてしまうほどで、それだけラルフの身体構造は常識を逸脱していた。

「俺は、元気ですよ」

「過信は、してはいけないわよ。そう言って暴れて、塞ぎかかっていた傷口を開いたのは何処の誰だと思っているの」

 そう言うと、噛まれた箇所である尻を思いっきり叩く。

 次の瞬間、声にならない悲鳴を上げ悶絶してしまう。

 尻から伝わる痛みは全身を駆け巡り、手足が震えだす。

 そんな情けないラルフの姿に再び尻を叩くと、校医は早く帰るよう促す。

 しかし痛みによって、動くことができない。

「……厳しい」

「私は、皆に優しいわよ。ただ、一部の問題児には容赦はしないわ。此処は、優秀な生徒が集まる場所ですもの」

「ううう、フランソワー」

「ほら、泣かないの」

 泣いたところで、ペットが戻ってくることはない。

 今頃新天地で悠々自適の生活を送り、飼い主の存在を忘れている可能性が高い。

 いや、恩を仇で返された時点で忘れている。

 それにフランソワーはエイルに服従し、ラルフを餌として食おうとした。

 だから再び出会ったとしても、食われる可能性が高い。

「ほら、お昼を食べて次の授業の準備をしなさい。入院していて、単位が危ないのでしょ。今回の件は自己責任ということで、単位の保留はないと聞いているわよ。こうなると、進級が危ういわね」

「ああああ、そうだった」

「もう、大声を出さない」

「で、ですが……」

 通常長期入院の場合、その間に得られる単位は保留とされる。

 後に簡単なテストや実技を行ってその分の単位を貰うというのがこの学園でのやり方だが、今回の場合それには該当しない。

 フランソワーという名前のオオトカゲを飼育した挙句、噛まれて入院。

 これを自己責任と言わずして、何を自己責任というのか。

 校則を破っている時点で、ラルフに弁論の余地はない。

 逃した単位を取る方法はただひとつ。

 休みの日も学園に登校し、一対一の厳しい個人授業を受けるしかない。

 だが、ラルフはこの他にもやらなければいけないことが残っている。

 それは、フランソワーを捜している時間に行われていた授業の補習だ。

 担当の先生に休むことも伝えず、勝手に授業をボイコット。

 無論、後で呼び出された説教の嵐。

 そして、それに対しての補習も残っている。

< 58 / 607 >

この作品をシェア

pagetop