ロスト・クロニクル~前編~
「何をするかは知らないけど、準備だけはしておきなさい。後で後悔するようなことがあったら、大変よ」
「単位、貰えますかね?」
「それは、貴方の努力しだいよ」
「はい」
「それと、真面目な態度ね」
「……はい」
「あとは、根性かしら」
「根性……ですか」
「理由は、わかっているでしょ?」
「勿論です」
ジグレッドの説教と個人授業。これから行われる地獄の体験に、珍しく動揺を隠せないでいる。
普段はあっけらかんとしているラルフであるが、事が事なだけにそのような態度は取れない。
「帰ります」
「お大事に」
ふらふらと、左右に身体を揺らしながら保健室から出て行く。
刹那、おもいっきり壁に額をぶつける。「ガツン」と痛そうな音を響かせるが、ラルフは至って平気のようだ。
額から伝わる痛みよりも今後の出来事の方が痛いらしく、二・三度ぶつけた額を擦るとそのまま帰って行く。
「大丈夫かしら」
心配する校医であったが、相手はラルフ。
このようなことで、身体に異常が出るはずもない。
寧ろ頭を打って少しは正常な感覚を取り戻すのではないかと期待してしまうが、その期待も無駄に終わる。
何故なら、合同授業でラルフは再びとんでもない事件を発生させてしまうからだ。
それにより、一旦平和が訪れたと思っていたメルダースに悪夢が再来する。
それは、ラルフ本人でさえも知る由もない。
無論、その他の生徒達も――
◇◆◇◆◇◆
「治療、終わったんだ」
昼食を食べ終え、エイルはラルフの私室を訪れていた。
彼は壁に背を預け、寝台に横になっているラルフを眺める。
校医の言葉が相当痛かったのか、周囲にどんよりとしたオーラを漂わせている。
普段見せない暗い表情に、保健室で何かがあったのだと気付くエイルだったが心配する素振りは見せない。