ロスト・クロニクル~前編~
「授業、受けられる?」
「ま、まあ」
「ならいいけど。別に、僕は独りでいいんだけどね」
「う、うん」
いつもなら間髪いれずに食ってかってくるラルフだが、今日に限って静か過ぎる。
そんなラルフに調子が狂うエイルは寝台に腰を掛けると、人差し指で頬を突っつく。
不健康な生活をしている割には、血色がいい頬。
自ら栄養剤を調合し、飲んでいるのだろう。
こういうことに関しては器用だったりする。
「元気ないな」
「教頭が……」
「教頭?」
「怒られるって言われた。それも、何処までも追いかけてくる。どうすればいいんだ。教えてくれ」
どうやらあの噂のことを、校医に言われたようだ。
恐れるものがないという感じのラルフであったが、押しかけ説教は恐いらしい。
人間は本来“学ぶ”という能力を持っている。
それに、普通に学習力が備わっていれば――と思うエイルであったが、それはこの先あり得ない。
「逃げずに、素直になればいい」
「同じことを言われた」
「誰だってそう思うよ。お前は何かがあった場合、必ずっていうほど逃げるよな。メルダースの教師達から、本気で逃げられると思っているところが凄い。たまには、諦めも肝心だよ」
「い、嫌だ」
メルダースは一流の学園であると同時に、一流の教師達の集まる場所でもあった。
無論生徒に知識を教える他に、教育指導も完璧に行う。
校則を守らない少し横道に反れた生徒の更生も、彼等にとっては専門分野だ。
まさに、スペシャリストの集まり。其処から逃げるなど、そもそも間違っている。
今、教師達のターゲットはラルフにあった。
しかし、更生のスペシャリストも手を焼くほどの問題児。
授業は平気でサボるし、寮では危険な生き物を飼育する。
また実験によって学園を吹っ飛ばすのは日常茶飯事で、説教の回数に至っては学園一。
そして、日々記録を更新している。
一部の教師はラルフを見放しているらしいが、ジグレッドのように懸命に頑張る教師の鏡のような人物もいる。
そのことをクドクドと説明していくエイルの言葉に、ラルフは枕で頭を覆う。
どうやらそういう話を聞きたくないようだが、往生際が悪いラルフにエイルがとうとう切れた。