ロスト・クロニクル~前編~

「現実をシッカリ見ろ!」

「見たくはない」

「それなら、怒られずに普通の学園生活を送ってみろ。ジョセフィーヌやらフランソワーやら。えーっとその前の生き物は、シボンヌだっけ? あれ? ジョセフィーヌはどうした?」

「違う。マリリンちゃんだ。マリリンちゃんは、飼育していないよ。名前は候補のひとつで、実際には使用しなかった。それにジョセフィーヌちゃんも、フランソワーちゃんのように連れて行かれた」

「ああ、そうだったね」

 ジョセフィーヌと名付けられた生き物は、オオトカゲではなくて特殊な亀の名前であった。

 三角斑二首――という長い名前がつけられた亀。

 フランソワーと違い大人しい性格の持ち主であったが、この亀は世界的に貴重な生き物なので、フランソワーと同じように研究所に連れて行かれた。

「のおおお、ジョセフィーヌちゃん。俺は、君を忘れない。だから君も、俺のことを忘れないで」

「まったく、これ以上おかしな生き物を飼育するなよ。あの件で、校則がひとつ追加されたし」

「動物以外なら、大丈夫かな」

「まあ、そうだね」

「なら、何がいいかな」

「それなら、植物にすれば。植物だったら流石に人間を襲わないだろうし、何より安全だから」

「植物……そうだ! 花にしよう」

「お前が、花……ね」

「別にいいだろう」

 美しい花々に囲まれて生活するラルフ。

 エイルは脳内でイメージ画像に転換してみるが、その似合わない光景に思わず笑い出す。

 赤や黄色の花々の中で、笑顔で佇むラルフなど有り得ない。

 寧ろ、気持ちが悪い。

 いや、シュールすぎる。

 また、言い方を悪くすれば地獄絵図。

 次の瞬間、エイルは噴出していた。

 腹を抱えて笑うエイルに、ラルフはシクシクと泣き出す。

 妙に打たれ弱くなったことに同情してしまうが、面白いものは面白い。

 このことを十人に話したら、十人とも同じ反応を見せるだろう。

 つまり、エイルのように爆笑する。

 それだけラルフの泣く姿は、貴重な光景だった。

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