ロスト・クロニクル~前編~
「エ、エイル」
「悪い悪い。花に囲まれている姿が、おかしくて。別に、おかしな意味で言っているわけじゃない」
「似合わないんだろ?」
「まあ、普段が普段だったから。ほら、ラルフといえば巨大生物。というイメージがあるし」
年中巨大生物を育てていると思われているラルフであったが、入学してから現代までの間、巨大生物を育て上げたのは一匹のみ。
つまり、オオトカゲのフランソワーしかいない。
ただ、インパクトが強過ぎた為に「巨大生物=ラルフ」というイメージが、定着してしまった。
「今は、育てていない」
「そうだけど。ほら定着すると、なかなか取れないし。ところで話は変わるけど、お前に手紙が届いている」
「手紙?」
「例の施設からの手紙だよ」
「ほ、本当!」
差し出された手紙を受け取ると、無造作に封を切り中身を取り出す。
そして、書かれている文字を声に出して読みはじめた。
その瞬間、ラルフは歓喜の雄叫びをした。
まさに待ちに待った知らせというべきものだろう、ラルフの頬を一筋の涙が伝うがエイルは見なかったことにする。
内容を簡略的に説明すると、フランソワーが五つの卵を産んだという報告であった。
その報告にエイルは、その場で固まってしまう。
五つの卵とは――研究所の職員は、育てるのに苦労するのは間違いない。
「おお、立派な母親になれよ。名前をつけられなくて、残念だったけど。候補は、あったんだ。シボンヌちゃんやキャロラインちゃん。ジェニーちゃんにマリーちゃん。その他もろもろ……」
「女の名前しかないのか」
「勿論!」
フランソワーにあれだけのことをされたというのに、子供達の名前を考えていたとは――ある意味でタフであり、馬鹿というべきしかない。
多くの卵が産まれてくると予想していたラルフは子供の首に巻きつけるということで、七色のリボンを態々買い揃えていたという。
しかしフランソワーとその子供達は、今は遠い場所で暮らしている。
無論、会いに行くことは可能だが、それ以前に外出許可が下りることはない。
それに、ラルフを裏切ったフランソワーの反応は果して――リボンを受け取る前に、食料として食われるのが落ちだろう。