ロスト・クロニクル~前編~
「会いに行きたいな」
「なら、勝手に行けばいい。今は、そのようなことを考えている暇はないというのに。授業は受けないのかな?」
「受けるよ。受けないわけにもいかないだろ」
「そうだね。単位の問題もそうだけど、出席日数も考えないとね。お前、授業サボりすぎだよ」
怪我が悪化したという理由で授業を休めることもできたが、残念ながらラルフは後がない。
それに合同授業の単位は他の授業の単位より大きく、ここで足りない単位を稼ぐという生徒もいるほどだ。
現実を突き付けられたラルフは横になっていた寝台から起き上がると、次の授業の準備をはじめる。
必要最低限の道具は教師達が用意してくれるので、生徒側が用意するのは教科書のみ。
今回は薬草の調合がメインとなるので、調合関連の本が必要となる。
しかし、これだけでは物足りない。
「教科書だけで大丈夫かな?」
「図書室に行ってそれ関連の本を借りてくるというのも手だけど、全部借りられていると思うよ」
合同授業の数日前から、図書室の本が徐々に消えてしまう――という現象が起こる。
それは、授業の為に借りていく生徒が多いからだ。
授業で行う内容は日頃から真面目に勉強していれば簡単なもので、焦って本を借りに来る生徒は自信がない者達。
無論、エイルは違う。
「簡単な調合だと思うから、大丈夫だよ」
「俺は……」
「その先は、言うな。今回そのようなことをしたら、どうなるかはわかるよな? 後がないんだろ」
「最近、毒吐くようになったね」
「誰の所為だよ」
相変わらず鈍感の友人に態とらしく溜息を漏らすが、そんなエイルを見ても全く無反応なラルフは、黙々と準備を進める。
そんな友人の後姿を暫く見つめていると、徐に背中を殴った。
「エ、エイル!」
「いや、殴りやすい背中だったので」
「合同授業、ペアを組まないぞ」
「別にいいよ。お前がいない方が楽だし。と言うか、それでいいんだ。立派になったね、ラルフ君。僕は、君の素晴らしい調合技術を見たいと思っていたよ。それが今回、見ることができるようだね。専攻内容でいえば、ラルフの方が得意分野。逆に失敗したら、笑ってやるよ」