ロスト・クロニクル~前編~
その台詞に、ラルフの時間が止まってしまう。
確かにエイルの言う通り、ラルフが独りでできる保障はない。
互いにこの学園の四年生なので、調合くらいは普通に行える。
いや、行えない方がおかしい。
だが、自信はなかった。過去の爆発が、いまだにトラウマとなっている。
「冗談だよ」
「お前の冗談は冗談と思えないから、先生にこのことを伝えておくよ。ラルフ、まあ頑張れ」
「この授業は、ペアでやって単位を貰えるんじゃなかったかな。だったら、独りはマズいんじゃ……」
「今回は、特別だよ。ラルフという生徒が僕と授業を受けたくないと言い出して、こうなりました。そう言っておくよ。これで許可が下りれば、独りで行うことができるし。その方が、楽だよ」
日に日に腹黒くなっていくエイルに、ラルフは言葉を失う。
このままでいると、本気で合同授業の担当教師に言いそうな雰囲気である。
エイルと授業を受けられることに心の中ではホッとしていたラルフであったが、一緒に授業が受けられないとなると困ることの方が多い。
材料を集めた後、調合はエイルに任せようと思っていたラルフにとってこれはまさに予期せぬこと。
昼食を食べる前にエイルに近づいてきた女子生徒が同じ考えを持っていたことは、流石にラルフは知らないが、どうやら考えることは皆一緒のようで、他力本願が目立つ。
「御免なさい」
「最初から、そう言えばいいんだよ。さて、調合は宜しく。他のことに関しては、面倒は見るけど」
「エイルがやるんじゃないのか?」
「誰が。調合に関しては、お前の方が専門分野だろ? 魔法だったら、僕の方が専門だけど。授業内容だって、僕達より高度な内容をやっているんじゃないか。まさか、できないとは言わないよね」
「まあ、一応」
「一応?」
「だって……」
「お、お前……」
「心配なんだよね」
魔法を専攻する生徒が学ぶ薬草学は、所謂付属のようなもの。
一般的に使用されている薬を学んでいき、内容はそれほど高度ではない。
回復魔法を専攻する生徒はもう少し学ぶ用途が増えるらしいが、内容に格差はない。
両方とも、魔法をメインに学ばなければいけないからだ。