ロスト・クロニクル~前編~
生憎、そのような生徒は誰一人としていない。皆、きちんと時間を守り授業の開始を待った。
広い敷地面積を有するハーブ園。
此処で栽培されているハーブは授業に用いられる為、様々な種類が用意されていた。
今回の授業内容は「指定された薬を時間内に調合し、担当の教師の下に届ける」という内容だった。
勿論、他のペアに頼むことができないよう、各ペアごとに調合の内容は異なる。
エイルは調合に必要な一式を受け取ると、指定された薬の名前が書かれた紙を受け取った。
其処に書かれていた文字は〈ポーション〉という単語。
それを見た瞬間、エイルの表情が徐々に歪んでいき、盛大な溜息をついた。
それだけ、ポーションにはいい思い出がない。
悪い表情を浮かべるエイルに「何か不都合でも?」と教師の一人が質問をしてきたが、頭を振るだけで答えることはしなかった。
ペアを組んだ相手が、ポーションを調合し爆発させてしまった過去を持つとは、言うことはできない。
もしそのことを言ったら、即中止になってしまう。
道具と紙を受け取ったエイルは、急いでラルフのもとへ向かう。
そして無言のまま紙を差し出すと、背を向け周囲の様子を観察しはじめた。
刹那、ラルフの驚いたような声が響く。
「これマジ?」
「偽物だと思うか?」
「ポーションに、縁があるよな」
「貰った時は、驚いたよ。この世界には、縁というものが存在するようだね。そういうことだけど、やらないといけないから頑張ろう。単位を落とすわけには、いかないからね。特に、ラルフが」
「……うん」
「さて、探そうか」
エイルの言葉にラルフは頷くと、ハーブ園の敷地へ向かう。
ラルフの場合、これを落としたら後がないという思いが身体を動かしているのだろう。
その姿は、葬式に向かう人間のようだ。
緑一色と思われがちのハーブ園であったが、赤や黄色という色彩豊かな暖色系も存在する。
これも多くのハーブを栽培している証拠だろう、授業を受ける生徒達はこの中から調合に必要となるハーブを自力で見付け出し、指定された薬を完成させなければいけなかった。
しかし表立って特徴があるハーブは少なく、その殆どが同じような形をしていた。
微妙に違う葉の形や茎の色。または、香りも重要なポイントとなる。
そして絶対に安全だと思われているハーブ園にも、落とし穴が存在する。
それは、人体に害を及ぼすハーブが栽培されているのだ。