彼の手
「だってお前を、またどっかヤツに持っていかれたら、俺も立ち直れない。
お前、俺がどれだけお前の結婚を聞いて後悔したか知ってんの?
未練絶ちきるために出席決めた結婚式で、お前不幸のどん底みたいな顔して。そんな顔してたらほっておけないだろ。そうやって俺の心に居座り続ける」
いつの間にか頭を撫でる手は止まっていて、その手であたしの頬をムニュっと捻る
「再燃させた気持ちってのは、自分でも制御できないの。だから、諦めて」
涙で霞む目でも分かる。
すぐそこにある優しい眼差し。
愛しそうにあたしを見つめるその瞳。
そんな目で見られて揺れない女がいるのだろうか?
グラグラ揺れるあたしの心に、とどめを刺すべく彼は
「お前の不安も分からなくはないけどね。だからさ──」
そう言ってあたしの一枚の紙を差し出す。
「………これ」
広げなくたって分かる。
緑縁のその書類………婚姻届。