謝罪のプライド
9.思い悩む女
 翌朝、浩生は早朝のうちに私のアパートから出て行った。一度自分の部屋に着替えに戻るのだろう。
一着くらいスーツも置いておけばいいのになんて思ってしまう。

 私の方は軽い朝食を食べ、いつもの時間にいつもの電車に乗った。


「あ、新沼さぁーん!」

 
 会社の最寄り駅で明るい声で私を呼ぶのは、坂巻美乃里だ。人が黙々とただ勤め先に向かう朝の光景の中で超異質な存在に見える。


「おはよ。坂巻さん」

「偶然ですね。一緒に行きましょうよ!」


美乃里は大分ごきげんらしい。グロスの塗られた艶のある唇が小刻みに動いて弾んだ声を出す。
私が見ても可愛いと思うんだから、男はたまらないんだろうなぁ。

美乃里は話題が豊富だ。会社近くのコンビニの新製品から、話題のドラマの話まで。
私が興味を示さなければあっさりと会話を流し、食いついてきたものは深く掘り下げる。
天然ちゃんに見えるけど、会話力は結構ある気がする。

ひと通りの話題が終わると、美乃里はふうと嘆息を漏らした。


「私ね、新沼さんには感謝してるんです」

「え?」


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