謝罪のプライド
 お客の笑い声に満ちた洋風居酒屋で、カウンターでグラスを傾けるのは女二人。


「だから私は待っているわけよ」

「何を」


私の隣に座る亜結は挑むような目つきで箸を突き立てる。
おいおい、失礼だろ、ってか刺されそうで怖い。

結婚式を一週間前に控えた三月中旬。
私は独身生活最後の亜結とのデートを満喫中だ。

結婚半年を迎えた亜結は、幸せ太りした事を気にしているのか、久しぶりに会った私の腰の辺りをやたらに触ってくる。


「ちょっと、くすぐったいんだけど」

「だって。やっぱり式前だからか絞ってるわねぇ。羨ましい」

「普段からこうよ。年度末で忙しいってのもあるし」

「まあいいわ。結婚式の後は休みとれるんでしょ? 行くんでしょ、新婚旅行」

「まあね。一応一週間とったし? 今までほとんど有給使ったこと無いんだから、文句は言わせないわよ」

「だよね。じゃあさ、その日は頑張って仕込んでね?」

「は?」


満足気に微笑まれても、さっきから言ってる意味がわからないんだけど。


「何を仕込めって? 味噌?」

「なんで味噌なんか仕込むのよ。田舎のおばちゃんか」

「だって」


この間、『かつや』のおばさんに自家製味噌の仕込みを見せてもらったばっかりなんだもん。

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