謝罪のプライド


「す、すみません」


彼女は明らかにたじろぎ、悔しいのか唇を引き締めたままじっと堪えている。


「いや。謝る必要はない。時間が勿体ない。やるぞ」


そっけなく言うと、顔を上げて俺と同じ作業を始めた。
分からなくなれば確認し、決して暴走はしない。
ただ、きちんとこなすことに全神経を向けて、初音は必死に働いていた。
スカートがめくり上がろうとも気にせず。

半分泣きそうな顔してのその態度は、ちょっと反則じゃないか?


ムカついていた気持ちが、一気に反転する。

初めて初音に女を感じた。
しかも、最上級の。
どこにもいないような根性のある女だって。


思えばこれが恋に落ちた瞬間だったのだろう。


とは言え、素直に優しくできるほど俺は器用じゃない。
俺が初音にしてやれることといえば、本人をヘルプデスク要員としてちゃんと出来るように育ててやることだ。

仕事においては甘やかさなかった。
ただ、抱え込みすぎるのが気になるから、意識転換は図らせる。

よくテンパっているくせに泣くのは堪えている彼女は、俺の話を神妙に聞いてはホッとしたようにその口元を緩ませる。

知らないだろう。
俺に対して、その顔はかなり効果的だ。
自分でも驚くほど、心臓が揺さぶられる。
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