謝罪のプライド
数時間後、彼は汗をかきながら涼しい顔で笑う。
「またおかしなことがあったらいつでもお電話ください」
「ありがとう、九坂さん」
あの仏頂面だったお客様が、満面の笑みで笑う。これが、“謝らない男”の実力なのかと思ったら胸が震えた。
世界で一番尊敬出来る人を好きになるのは、幸せで同時に不幸でもあるだろう。
自分が彼の隣に立てるなんて、夢のまた夢だと思っていた。
そうして、彼のもとでの研修が終わる日。
九坂さんを含めCEの何人かが簡単な送別会を開いてくれた。
「九坂によく食いついて行ったよ。根性ある」
私の、この部署での評価は『根性のある女』だった。
それは私にとっては、可愛いと言われるより嬉しいことだ。
「でも九坂さん優しかったです」
「マジ? 鬼の九坂がどうした?」
「別にどうも? コイツに根性があっただけの話だろ」
頭をコツンと叩かれて、それが他の人とは違うのかなって優越感を駆り立てた。
九坂さんが優しかったから、調子に乗ってしまったのかもしれない。
別れ際、アパート前まで送ってくれた彼のスーツの裾を、引っ張って呼び止めてしまった。
「どうした?」
「送り狼になりませんか?」
「酔ってるのか?」
私の声は震えていたと思う。顔も上げられなくて、彼の表情も探ることも出来なかった。
呆れているのか、驚いているのか。少なくとも声色からは喜んでる気配は感じられなくて、私は急に怖気づいた。