謝罪のプライド



その初音が、俺に言った。


「送り狼になりませんか?」


送別会の後、女癖の悪い三笠に捕まる前にと同じ方向だと理由をつけてアパート前まで送ってきた時のことだ。

これはあれか。
告白されているのか?
それとも、酔っ払ってふざけているだけか?

初音がこういう冗談を言う女だとは思っていないが、酒が入っているしと思うと判別つかない。

ここで抱くのは渡りに船だが、それで始まる関係はいかにもあやふやなもののように思えた。

手に入れるなら完璧な状態で手に入れたい。


この時、俺は彼女の心情は何も慮っていなかった。
この一言をいうのに、どれほど勇気を使ったのかも。


ただ単純に俺は初音が欲しかった。
一晩だけじゃなくて、これから先まで含めて。


「とっとと寝ろ、酔っぱらい」


だからわざと冷たくして、彼女の動揺を誘った。

俺のことを考えるといい。
夜も、朝も昼もずっと、週末の間、飽きることなく。


そして週明け、彼女に手を伸ばした。
少しでも俺に気があるならば、これで食いつかないわけがない。


我ながら策略家だがと思うが、彼女の反応はまた予想外だった。


「九坂さん、あの。私嬉しいんですけど、そう言えば今日はちょっと」


今日はちょっとなんだよ。

怖気づいたのか?
冷たくしすぎたのか。

それとも実は男がいて、清算するのを待てとか?
様々な思いが心中入り乱れたが、最初にお預けを食わせたのは俺だから、自分が食わされて文句を言うわけにもいかない。

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