謝罪のプライド


「はー」

途端に襲ってくる脱力感。溜息とともに椅子に座り込み、ショートボブの髪を振り乱して机に突っ伏す。落ち込む時間は三十秒。それ以上悩んだって何も解決するわけじゃない。

私は勢いよく顔をあげ、次にすることを宣言する。


「発注、発注」


社内の発注システムにお客様の情報等を入力し、送信。
更に梱包担当するはずの部署に電話をかける。


「あ、ヘルプデスクの新沼(にいぬま)ですけど。先ほど出した発注フォームのお客様。……ええそうです。松田様。かなりお怒りの様子で電話かけてこられたので、くれぐれも送付ミス等無いようにお願いします。え? あ、そうですね。できるだけ早くお願いします」


早口でまくし立てる私を、隣の席からぽやんとした顔で見ているのは、そもそものこのクレーム騒動の原因である坂巻美乃里(さかまき みのり)、二十四歳だ。くるくると巻かれた胸までの髪をゆるく結い、ぱっちり二重の瞳が可愛い。


「なんとかなりそうですか? さすが新沼さん!」


感激を顕わにしたその顔はまるで花が咲いたようで、男ならぐっと来ることだろう。
でもね。女の子の可愛らしさは女の上司には通用しないの。

そんなことより先に謝ってほしい。
途中からあんな対応させられて、私がどんだけ不快な想いをしてると思っているの。

感情が露わにした私の睨みに、彼女は一応反省の様子を見せる。



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