謝罪のプライド

ちやほやされる美乃里にもイライラするけど、もっと腹立たしいのはこの三人だ。
大体、仕事上では私に任せっぱなしなのに、こうした場になると途端に社交的になるところも気に入らない。いいところばっかり取っていくなよ。


「では、坂巻さんの他部署研修の成功と、再び戻ってくる日を楽しみにかんぱーい」

「カンパーイ」


とは言え、少人数でギスギスしていてもいいことなんて何もない。こうなりゃ飲んで楽しんだほうがいいわ。

私は一杯目を一気に飲み干し、煮え始めた鍋に手を伸ばした。

ヘルプデスクは人数も少ないせいか、あまり上下関係にも厳しくない。
いつの間にか私が部長にクダを巻いて、残り三人が美乃里を囲むという構図が出来上がる。私がついつい部長に愚痴ってしまうのは他に聞いてくれる人がいないからだけどさ。


その時だ。パリーンというガラスの砕ける音が辺りに響いた。
ざわついていた店内は一気に静まり、私たちも音が鳴った小上がりの方に視線を向けた。


「お客様大丈夫ですか?」


すぐさまやってきたであろう店員の声は先ほど案内してくれた人に似ている。とりあえず店の人が対処しはじめたことで、周りのお客は安心して自分たちの食事に戻った。


「この子が投げちゃってぇ。だから、子供椅子無いと困るんですよねぇ」


どうやら子供連れのお客のようだ。

それにしても、ここは鍋の専門店とはいえどちらかと言えば居酒屋的な側面が強い。子連れのお客が食事を楽しみに来るにはちょっと違うような気がするけれど。

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