謝罪のプライド

呆れながら通りすぎようとした時、ガラスの破片が落ちているのに気付いて拾う。
ちょうどその店員が小上がりから降りてきたので、渡そうと顔をあげた。と、その時に力が入ってしまったのか、ガラスが皮膚を切り込んだ。


「いたっ」

「お客様、大丈夫ですか?」


彼はすぐに私に気づき、駆け寄ってくる。
両手には割れ物をいれたビニール袋と雑巾。彼はそれを足元に置き、私の手を覗きこんだ。


「お怪我させましたね。すみません。消毒しますからこちらに」

「え? あ、大丈夫です」

「ダメですよ。こちらへどうぞ」


ぐいと引っ張られ、私は厨房へ連れて来られた。

彼は他の店員に先ほどの小上がりに飲み物を、周りの席にお詫びがてら漬物を持っていくように指示を出し、手を綺麗に洗うと私の方へ戻ってきた。


「すみません、手見せてください」

「あの、ごめんなさい、余計なことして」

「いえ? 拾ってくださったんでしょう。ありがとうございます。他のお客様がうっかり踏みつけていたら大変なことになっていたかもしれません」


にっこり笑う店員。
感じるのは既視感。
この顔、やっぱりどこかで見たことあるかも。
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