謝罪のプライド
「……馬鹿っ」
ようやくこぼせた声は潤んだものになってしまった。
すると浩生はテレビを消して、余裕の笑みを浮かべて私を覗きこむ。
「意地っ張り」
「なっ……」
反論はキスに飲み込まれた。
浩生は謝らない。私はそれを格好いいと思い、悔しいとも思う。
「知らない」
「拗ねるなって」
手首を押さえられても、私は顔をそむけて唇を噛み締めた。
一言「遅くなってごめん」って言ってくれたら、こんな意地ははらずに済むのに。
「好きだよ」
ずるい。
その言葉は嬉しいけど、今は違う言葉がほしい。
誰にも言わない『ごめん』を一度でいいから私にくれたらいいのに。
「……もうヤダ」
「怒るな。不細工になる」
お酒の香りが、眉間に、頬に、唇にと順番に下りてくる。
機械の不良部分を見つけ出す要領で、私の不機嫌な理由も見つけだしてしまうのか。
大きな掌が体を撫でていく内に、苛立ちとか不満とかの代わりに愛情と欲情が溢れ出してくる。
目を瞑って彼にしがみついた。
浩生の手に踊らされてる感じが堪らなく嫌だと思うのと同時に、彼に愛されるならもう謝罪の言葉なんて聞けなくてもいいとも思う。
恋愛ってなんて厄介なんだろう。