謝罪のプライド
息が止まるかと思った。
ちょっと待ってよ。
美乃里のこと、呆れてたんじゃなかったの?
どうしてそんな、優しい顔で彼女を見るの?
今現在浩生は美乃里の上司だ。ヘルプデスクにとって、彼女が彼にちゃんと仕事を教えてもらえるのは助かるし、喜ぶべきことなんだと分かってる。
だけど、心のなかが一気に真っ黒な絵の具で塗られたような感じがする。
「しっかりやれよ。……おう!」
美乃里の頭をポンと叩いて先を歩いてきた浩生は、私に気づいて手を挙げる。私は咄嗟に携帯を隠した。
「お、お疲れ様です」
「もう帰るのか? お疲れさん」
「あ、あの。どう? 坂巻さんは」
ちらり、と後ろに残されている彼女を伺うと、浩生から渡された資料を手にニコニコと微笑んでいる。
「ああ、思ったよりは根性はあるな。まあ任せろ」
「うん。……ありがとう」
“根性がある”
それは、私への褒め言葉だったのに。
「昨日はどこ行ってたんだ?」
「あ、うん。そう。亜結と出かけたの。覚えてるでしょ」
「ああ、学生の時の友達だろ?」
「うん。それで……」
「あー! 新沼さぁん」
途中で美乃里が私に気づいて割って入ってくる。
浩生は「またな」と小さく呟いて、先に行ってしまった。
私は、途方に暮れたようにそれを見送る。