謝罪のプライド
しばらくすると亜結が顔を出す。

「大丈夫? 初音。具合悪くなったんだってぇ?」

思ってもみないことを言われて驚いたけど、話を聞いていると、どうやら数家くんが適当に言い繕ってくれたらしい。

「亜結。……大丈夫。ごめん、折角清水さんにも来てもらったのに」

「私たちはいいけど。……ねぇ初音、本当に具合悪いの? それとも、さっきの九坂さんってもしかして……」

「違う。違うの、ホントに急に貧血みたいになって」

そんなわけはないと亜結はわかっているだろうが、今心配を掛けたくない。

「とりあえず一回席に戻る」

私はふらふらと入り口に近い浩生たちの席を通らないように自分たちの席に戻って、清水さんに謝罪をした。

「ごめんなさい。折角楽しく飲んでたのに」

「でも顔色悪いですよ。今日は終わりにしましょう。送りますよ」

「いえいえ。二人はまだ楽しんでいてください。時間も早いし。……ごめんね、亜結。これで払っておいて」

「でも、初音一人じゃ帰せないわ。一緒に行こうよ」

早く食べるように清水さんを小突く亜結。
鍋の中にはまだ煮えたぎった具材がたくさんある。

ああ、いいよ亜結、本当は違うのに申し訳ない。


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