謝罪のプライド

「新沼様、タクシーをお呼びしましたよ」

数家くんがやって来て、私にそっと耳打ちする。

「え?」

ちょっと待った。そんなのは頼んでないよ。
でも、ここを切り抜けるにはチャンスか。


「うん。そういうわけだから大丈夫。二人はゆっくりしてて」


お金を置いて、逃げ出すように立ち上がる。

でも帰るときに浩生たちの席の近くを通るのが嫌だと思っていたら、数家くんが私を手招きした。


「なに?」

「こっちから出ればいいですよ」

そう言って厨房へと連れてきてくれ、「ごめん、俺ちょっと出る」と他のスタッフに告げて、厨房を通り抜けた裏口から外へと出してくれた。


表通りとは違って、薄暗い小道には油っぽい匂いが充満している。


「実は、タクシーは呼んでないんです。どうします? 呼んだほうがいいなら呼びますけど」

「あ、そうなんだ。いや、大丈夫。私別に酔ってないし。時間もまだ早いし」

じゃあ抜け出すために気を配ってくれたんだな。
なんて気が利くんだろう。
店内全部に目を通しながら、客の機微にまで気づくとは。

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