謝罪のプライド
『俺の接客理念の根本にあるのは、あの時の君。居合わせる人の居心地の良さを追求するってのが目標なんだ』
「え?」
いやいや、私そんなに大層なことは考えていなかったし。
買いかぶり過ぎだわ。
でも、あれ。
心臓がおかしい。頬もちょっと熱い。
なにこれ、ドキドキ……してる?
『俺は当時人と話すのが苦手で、誰かに構うのも構われるのも面倒だったんだ。だから、いろんな人の世話を焼く君を実はちょっとうるさいと思っていた。移動は長くて、皆それぞれに騒いでるし。俺は目を瞑ってやたらに響く君の声に眉を潜めていた。その内に俺の隣の席の中山が酔って、俺が気づいて先生を呼ぼうとしたけど、俺の声は周りの騒がしさに消されて届かなかった。新沼さんだけが気づいて、先生を呼んでくれたんだ』
「そ、そんなのあったっけ」
あったとしても、そんな感銘を受けるような話でもないじゃん。
『あったよ。で、一人酔ったやつが出たと思ったら皆シーンとしちゃってさ。無言で窓とか開けるし、中山ももう泣きそうになってて。……でも新沼さんが次の目的地とかの説明始めて皆そっちに集中していって。あ、すげぇなぁ、この人意識操作したって』
ドキドキ感が一気に崩れた。
意識操作って、悪者かよ!