ずっと前から君が好き
"決めた思い"
「..っ、....ん..?」
重たいまぶたをゆっくり開くと、太陽の眩しい光が一気に飛び込んできた。
「ここ、は...?」
クラクラする頭を支えながら、体を起こして、俺は周りを見渡した。
たくさんのベッドに、骸骨、消毒の匂い...。
保健室か...。
心の中でそう納得したとき、同時に保健室の扉が勢いよく開いた。
「優也っ!!起きたの!?よかった~!」
「....!!」
「お前ら...。」
そこにいたのは、銀と蒼太だった。
銀は小走りで俺のところに来てくれたが、蒼太は扉の近くで足を止めた。
「蒼太...?」
名前を呼ぶと、蒼太は一瞬だけ俺の方を見たけど、すぐにうつむいて黙り込んでしまった。
「え...」
そのことに俺が驚いていると、銀がいつもとは違う低いトーンで話し始めた。
「...蒼は、すごく不安なんだよ。」
「えっ..」
銀は俺に、今にも泣きだしそうな顔を向けた。
「蒼には三つ、年の離れた弟がいたんだ。優也と同じで体が弱くて..。
そんなある日、クラスメイトの奴に体のことをからかわれて、喧嘩になった。
もちろん、相手の方が力も強いし、体も大きいから勝てるはずなくて。
殴られたり、蹴られたりしてたら、そこで発作を起こしてそのまま亡くなったんだ..。」
「っ...!?」
俺は驚いて蒼太を見る。
扉に寄りかかってうつむいている蒼太は、遠目でも分かるくらい震えていた。
俺は言葉を失った。
自分が蒼太に。違う、蒼太だけじゃない、銀にも...。
俺が倒れたことで、二人をどんな気持ちにさせていたのか、俺はちっとも気づかなかった。
「ごめんっ...!!ほんと、ごめん...っ!!」
謝るより先に、俺の目からは涙がこぼれた。
白いシーツに顔をうずめて、俺は何回も謝った。
謝って許されることじゃないけど、今の俺にはそれしかできなかった。
だけど、謝り続けようと思っていたことも、流れ続ける涙も、止まってしまった。
それは、銀と蒼太が俺の肩に手を置いたから。
「っ....?」
顔を上げると、銀も蒼太も泣きながら笑っていた。
蒼太は涙を手の甲で拭いながら、口を開いた。
「優也、なんで弟の話をしたかって言うとな。
もう、大事な奴を失いたくなかったからだ。」
「...え?」
「俺にとって、銀も優也も大事な奴だ...。
だからもう、あんな思いは..二度と、したくない..。」
そう言った蒼太の目は、強く俺を見ていた。
「分かった..。ごめん..!絶対、もうしないから..!」
俺が蒼太と同じ目で見ると、蒼太も大きくうなづいて笑ってくれた。
「はぁ~!!良かった!!」
その瞬間、銀は体をグッと伸ばしながら顔を上に向けて叫んだ。。
「「そうだな!」」
俺と蒼太は、銀の笑顔につられて、また笑い合ったのだった。
それから少し経って、銀がウキウキしながら口を開いた。
「ねぇ、このまま屋上行って、授業さぼらない?」
「えっ!?銀っ何言ってんだよ!」
そんなこと言ったら、蒼太が怒るんじゃ...?
心の中でそう思ったが、蒼太の口から意外な言葉が出てきた。
「...まぁ今日くらいはいいか。」
「えぇっ!?蒼太!?」
「ん?笑..いい機会だしな!」
「やった~♪」
「そのかわり!四時間目が終わったら、すぐに数学の先生の所に、銀を連れて行くからな。」
「え...なんで?」
「お前が居眠りしてたからだ!」
「えぇ~!!..まぁ、いっか!行こ行こ!」
「おいっ...!二人とも、駄目だって--」
俺が二人を止めようとそう言いかけたとき、二人は黒い笑顔で振り返った。
「いいんだよ、優也。ほらぁ、行・く・ぞ..?」
「そうそう...倒れる前に何があったのか、優也の"口から"聞いてないしぃ...?
ね~ぇ~優也ぁ~?」
「え、でも..。あっ!お、おいって!
..てか、お前ら..目が笑ってないぞ..。っ!?ぎ、ぎゃあああぁぁーーー---...」
俺を二人係でベッドから降ろし、右腕を蒼太に、左腕を銀に掴まれ、
俺は保健室を出た(出された)。
しかしこのときの俺は、保健室に、誰かがもう一人いたことなんて知る由もなく、
銀と蒼太に腕を引かれていたのだった。